恋する背中をつかまえて
車が砂地に停車して
ドアが開けると、
懐かしい潮の香りがした。
「…海…だぁ…」
久し振りに聴く、細波の音。
いつまで見てても飽きない
繰り返す波飛沫に、
同じ物はひとつもない。
まるで、
あたし達の離れていた時間に
無駄がないのと同じように。
もつれる足がもどかしく、
そっと手を引いてくれる
崇志の左手に委ねながら。
波打ち際に辿り着いた。
言葉がうまく出ないけど。
きっと何も要らなかった。
…きっと隣にいるだけで
十分だったに違いない。
.