国王陛下は純潔乙女を独占愛で染め上げたい
『常に民の声を聞き、このウェスタの良き王となってくださいね』
母がマルスに残したのは、そんなたった一言だった。
心身ともに疲れ果て、最期はウェスタの至宝とまで謳われた美しさは、見る影もなかった。
その苦労は、ほとんど前王、つまり、マルスの父親のせいだろうとマルスは思っていたし、
おそらくはそれが事実でもあった。
彼の父は、
世界の果てがどうなっているのか調べたいと言っては、巨大な船を建造しようとしたり、
空を飛びたいと言っては鳥の羽を背中にしょって、木から飛び降りようとするような変わり者だった。
人々が、密かに“狂王”とあだ名していたその男は、
やがて、世界中を旅して回ると言い残し、ある日突然、何の前触れもなしに、
このウェスタを去っていったのだった。
父に置いていかれた時も、王になると聞かされたときも、
マルスはたいした感慨も湧かなかった。