国王陛下は純潔乙女を独占愛で染め上げたい
その晩の月は、きれいな円を描いていた。
厚い雲に覆われてはいたが、時々、翳りのある妖艶な輝きを見せ、二人を照らしていた。
マルスと、
レアを。
この月を、マルスは一生忘れないだろう。
今までに見たどんな景色よりも、レアと見上げるこの月が、心から美しいと思えた。
「すまなかったな。酷い事を言った」
「いいえ、私を逃がしてくださるためでしょう?」
レアが柔らかく微笑んだのを見て、マルスは、ほっとした。
「中に入ろう。だいぶ、冷えてきた」
レアの細い肩に手をかける。
それは、マルスが想像する以上の華奢な線を描いており、とても、昨夜一晩かけて、創世記を語った人物と同一だとは思えないほどだ。
「本当に・・・悪かった。俺のせいで」
マルスは、レアの額にかかる前髪をはらった。
赤黒く腫れあがったそれは、民衆に投げつけられた石が当たった場所だ。
額だけでなく、肩や足、わき腹にも同じような傷がある。
「心配性ですね。マルス様は」
レアは、ふふっ、と笑って、マルスの瞳を見つめた。