国王陛下は純潔乙女を独占愛で染め上げたい
お父様。ぽつりとつぶやいたシギネアの声が、暗闇に吸い込まれる。
「何か、お考えがおありなのでしょう?
このまま、罪人として、裁かれるおつもりではありませんよね?」
かすれたシギネアの声には、期待と不安が入り混じる。
「シギネア。お前、創世記をどこまで暗誦できる?」
娘の問いに、アニウスは問いで返した。
「え?それは。1章、いいえ、2章くらいなら」
そうか、とアニウスは、つぶやいた。
「そりゃ、レアは暗誦が得意かもしれませんが、私だって、すこし真剣にやればあれくらい!」
「できるか?本当に?
自分に敵意を持つ大勢の民を前にして、あのように、朗々と語ることが?」
「そ、それは・・・」
言いよどむシギネアを前にして、アニウスは、ため息をついた。
「巫女の任命式で、初めてあの娘の暗誦を聞いたときは、鳥肌が立ったものだ。
だが、だからと言って、あの娘を認めるわけにはいかなかった。
決して、認めるわけには」
一瞬、アニウスの瞳の奥に、揺らめくような炎がともったが、それは誰にも気付かれないうちに、しぼんで消えた。