国王陛下は純潔乙女を独占愛で染め上げたい
娘の心情を察したのか、アニウスは薄く笑った。
「私は、最初から堕落した臣だろう、と言いたいのか?」
「・・・」
「私も、最初から今のように、奸計(かんけい)ばかりをめぐらせていたわけではない。
私にも、理想に燃えていた頃が、あったのだよ。もう、ずいぶんと昔になるがな」
シギネアは、眉をひそめた。
これ以上聞けば、自分の生き方を根底から覆されそうな予感がする。
しかし、やはり聞かずにはいられなかった。
「では、どうして?」
「ヴェローナを、お前の叔母を、あの男が不幸にしたからな。
王妃は一人と言っていたのに、あいつはあっさり正妃に別の女をつけた。
だんだんと、あの男の事が信用できなくなって。
結局、あいつはヴェローナを置いて出て行った。
それからだ。私が決定的に変わったのは」
レアの語りなど、聞きたくはなかった。
聞けば、妹を思い出すから。神官だった、かわいい妹の事を。
何が何でも、マルスとレアを一緒にさせたくはなかった。
それは、アニウスにとって、まるで悪夢の再現映像のようだったから。
「すまないな、シギネア・・・」
アニウスが、壊れ物を扱うように、そっとシギネアの肩に手を置くと、
彼女の瞳から、透明な雫があふれ出した--。