国王陛下は純潔乙女を独占愛で染め上げたい

魚を狙うかもめが、翼をめいいっぱい広げて、騒がしい声をあげている。

その港町の奥まった一軒の家では、今日も多くの患者たちが、

ウェスタからきた巫女に施薬を行ってもらおうと、こぞって列を成していた。


「では、これを朝と晩の二回、きちんと飲んでくださいね」


「ありがとうございます!マリカ様」


患者さんの明るい笑顔をみると、マリカの心は晴れ晴れした。


残してきた患者の事を気にするレアの代わりに、このチェルシーへ来る事を自ら志願したのは、マリカだった。

おそらくは、この国の生まれ。


故郷に戻って、自分のこと、これからの事を考えてみたかった。

楽しい思い出ばかりではないが、やはりマリカにとって、思い出のある地だ。


国外どころか、神殿より外に出ることさえめったになかったウェスタの巫女を広く開放し、

誰でもが施薬を受けられるようにしたのは、王の英断といえるだろう。


今では、なりたいものはいつでも神殿に見習いとして入り、勉強をすることが許されている。

神官長から施薬の許可がおりれば、故郷へ戻って、施薬師になることもできた。



・・レア様は、今頃どうしているかしら。



マリカは、疲れた体の緊張をほんの一瞬だけ緩めると、遠い目をしてウェスタに思いをはせた。








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