魔女と魔獣
「春になったらバイク乗れるかな。」


「乗れるよ。」


「こんなに自分が思い通りにならない
頭や体だけじゃない
心の中まで、いろんな力に支配
されているから。
今ここで努力したとこで……」


そのあとの言葉は
わかってる。


 どうせ死ぬんだし……


私は真重のきれいな指に
キスをした。


「おまえは平気か?」


「ずっと悩んできたよ。
でも今は平気。
私はあなたを今ここで
愛してる。
誰よりも何よりも大事なの。
幸せだよ。
あなたになら
消えてしまう前に抱かれたい。」


確信には触れられない
もどかしさでも
私たちには
通じる。


「こんなにわかりあえるって
すごいことだよね。
それじゃだめ?
今を大事にしたらいいじゃん?」


「私は志村 マサ代
あなたは江口 真重
愛し合う運命の二人だもん。」


「おまえは強いな。」


「強いよ。
マジュが好きだから。」


真重は私の手を自分のほうに
引いた。
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