ないものねだり
お洒落な洋風の階段を上がり、男がドアを開けたそのカフェは、ガラス張りで、いくつかの白いかわいいテーブル、椅子が置かれた明るい店内だった。
「どうぞ。」
ドアを開けたまま、男は真摯な顔をして、私を先に店内へ入れた。
「…どぉーも。」
「いらっしゃいませ。」
カウンターの中から、30代であろう、細身の男がこっちを見るわけでもなく、なにやら仕事をしたまま声を出した。
「そこ。座ろっか。」
そう言うと、サッと私用に椅子を引き、その向かい側に主任は座った。
「コーヒー、飲めるでしょ?」
「まぁ。」
「あ、嫌い?」
「いや、別に。」
「そか。良かった。」
主任は、薄っぺらなバッグから、何やら書類とペンを取出し、
コーヒーを飲めるか聞いておきながら、注文することなくその書類をテーブルに広げた。