メランコリック症候群
「ううん、良いんだ。わりと楽しいし?」
そよいだ生暖かい風が彼女の頬に掛かる髪を揺らして、泣き黒子がちらりと覗いた。ふわりとした幼さを残した笑顔は、知り合った頃と何も変わりない。ふとした瞬間に、あのもじもじと奥手で気弱な美月を垣間見て、安心をしている自分がいた。
意味もなく互いに口元に笑みを浮かべながら、煩く喚くセミの声に耳を傾ける。暑さを加速させるこのセミの声でさえ、恐らくは本来の彼女の特徴でもある心地よい穏やかさは乱せない。
「……高橋君は、さ」
急に沈黙を破った美月に、俺ははっとした。1年の時には良くあった、美月が作り出す沈黙の暖かさ。黙っていることに気が付かないことも、しょっちゅうだった。しかし、俺が記憶しているそれはいつも、途切れるときでさえ柔らかいのに、何故こんなにも鋭利な感覚がしたのだろう。
美月の声色が変わったから?
いつの間にやら宏が隣にいないから?
セミの声が、遠くなったから?
それとも、何か他の理由だとでも言うのだろうか。分からない。
そよいだ生暖かい風が彼女の頬に掛かる髪を揺らして、泣き黒子がちらりと覗いた。ふわりとした幼さを残した笑顔は、知り合った頃と何も変わりない。ふとした瞬間に、あのもじもじと奥手で気弱な美月を垣間見て、安心をしている自分がいた。
意味もなく互いに口元に笑みを浮かべながら、煩く喚くセミの声に耳を傾ける。暑さを加速させるこのセミの声でさえ、恐らくは本来の彼女の特徴でもある心地よい穏やかさは乱せない。
「……高橋君は、さ」
急に沈黙を破った美月に、俺ははっとした。1年の時には良くあった、美月が作り出す沈黙の暖かさ。黙っていることに気が付かないことも、しょっちゅうだった。しかし、俺が記憶しているそれはいつも、途切れるときでさえ柔らかいのに、何故こんなにも鋭利な感覚がしたのだろう。
美月の声色が変わったから?
いつの間にやら宏が隣にいないから?
セミの声が、遠くなったから?
それとも、何か他の理由だとでも言うのだろうか。分からない。