メランコリック症候群
現に俺は医者への道を順調に歩んでいるんだ。それは、周りも自分の理想像も望んでいること。俺は、逆らえない。

「だから、ね?治そう?」

「……治らない」

「どうして」

イライラ、イライラ。


「治ろうとする気持ち、俺には微塵もないから。周りにもないからだ」

俺は学ランを掴んでいる彼女の手を振り払って、目を合わせた。

嘘ばっかり。本当は彼女の手を取って、助けてくれと縋り着きたいくせに。

「駄目」

「……」

「駄目よ。仮にも私は医者。キミを救う義務がある。救ってあげたいのよ。だって、そのために私はここに居るんだから」

救いたい。その一言が俺の心をこじ開けた。救ってくれる。この人は、俺が周りに蔓延らせている『理想像』というフィルター越しに、俺自身が見えている。

そう、直感でわかった。


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