メランコリック症候群
「順調だよ。このまま行けば、落ちることはないと思う」

近くに受験生がいたなら殺されてしまいそうな台詞だとは思いながらも、俺は素直に答えた。11月に入り、センター試験へのカウントダウンが黒板の隅を陣取るようになったこの季節、クラスメートも目を血走らせて受験勉強に励んでいる。

今では日課となった宏と美月との勉強会も、いつもはおちゃらけた2人の放つ真剣な雰囲気に触発され、自然と勉強にも精が出ると言うものだ。

「ま、そんなところだとは思ってたけどね」

「簡単に俺達の偏差値抜きやがって。本当に可愛くない」

うっすらと笑みを浮かべる姉さんも、口では悪態をつく兄さんも、優しい目を向けてくる。結局俺に甘い2人が見せる表情は、いつまで経っても昔のままだ。

変わらない事への喜び、変わらない事への不満、そのどちらの要素も孕むモラトリアム人間の脳内は、1つの答えには程遠い場所で揺らめく。その遠さに耐えられなくなるのは、それが俺だからか、それとも必然なのか。

ひとかけらの実体も持たない大きなモノと戦うことを余儀無くされている俺達の心は、解放を待ちわびてただひたすらに堪え忍んでいるだけだ。揺さぶられるのは、楽じゃない。

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