メランコリック症候群
「メランコリック症候群だってさ」

「メランコリック?」

「憂鬱」

「ゆう、うつ……症候群」

「まぁ、そんな病気なんかないから。あんま気にすんなよ」

宏は顔をしかめて食べ終えたプリンのカップをビニール袋に詰め込んだ。袋の口を縛って空気を抜く間、宏は無言で俯いていた。

「なぁ、楓?」

「何?」

「何か、悩みでもあるのか?もしかして俺が気が付いていないだけで、本当は辛かったりする……?」

あからさまに表情を曇らせて心配をしだした宏に思わず苦笑いをしてしまう。

「大丈夫だよ。お前が気が付いてないんだ、その白石先生がなんて言おうが大したこと無いに決まってる」

「……そうかな」

「当たり前だろ」

得意な貼り付けたような笑顔を向けても宏は渋い表情を崩さなかったが、俺の作り笑いを気にしている様子はなかった。相変わらず、俺は演技が上手いらしい。

なんとか宏を安心させて弁当箱をしまい、半分ほど読み終えた小説を取り出した。何が楽しいのか宏は小説を読む俺を無言で見つめ続けていた。




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