メランコリック症候群
「少しは理解できたか?」

「ん~まぁね。教えてもらう前よりは」

「当たり前だろうが」

前より分からなくなってたら困るんだよ。半ば呆れて宏を見ると苦笑いを浮かべた見慣れた顔が街灯に照らしだされた。

家までは徒歩約15分。家の近くの十字路で宏とは別れる。俺は左に、宏は右に。宏は両親と兄弟達が待つ暖かな家へ、俺は家族全員出払って空っぽの家へ。

もう随分と長い間家族全員で食事をしていない。いや、食事どころか顔を合わすのでさえ珍しい事なのだ。比較的よく会う兄も、もう1週間は顔を見ていない。母には毎日会うけれど、看護師だってそう暇じゃない。

皆それぞれ忙しく、寝るためだけに帰ってきているような我が家だ。仕方ないのかもしれないが。

「……メランコリック症候群か」

見慣れた十字路が間近に迫ってきたとき、宏は独り言ではないかと思うほどに小さな声でそう呟いた。

あの白石とかいうスクールカウンセラーの馬鹿みたいな診断結果。強ち間違ってもいないのだろうが。

「どうしたんだよ」

「んーどうしたのかな。よく分かんない……」

困ったように笑ってガシガシと頭をかいている。俺に向き合った宏は昼休みと同じように心配そうな顔をしていて、少し戸惑った。

そんなに気にしてしまうほど病んでいるようにでも見えるのだろうか。それとも、白石の言った『メランコリック症候群』という病名がしっくりきてしまうような態度を俺が宏にとったことでもあったのだろうか。

よく分からないというコイツの方が、俺にはよく分からかった。



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