メランコリック症候群
「お前には分からない事ばっかなんだな」

嫌味っぽくニヤリと笑ってそう言うと、ムスッと不機嫌そうに悪かったなと小声で返してきた。

「心配してんの。わかるだろ?」

「まぁ、そりゃわかるけど。……何?」

十字路までやって来て宏に背を向けるとがっしりと腕を掴まれた。街灯がジジと鈍い音をたて、俺たち2人を照らし出す。

「カウンセリング室来いって言われたんだろ?」

「……あぁ」

「行けよ、カウンセリング室。俺には良く分かんないんだけどさ、やっぱり由香里ちゃんはそう……その、なんだ、心のことに関してはプロだろ?その由香里ちゃんが言うんだからさ、やっぱ心のどっかが病気なんだって。由香里ちゃんに話聞いてもらって、楽になった方が良いと思うんだ」

心の病気、か。楽にしてもらえたなら、どんなに俺は救われるのだろうか。俺に手を差し伸ばしてくれた彼女。彼女なら俺を変えられるのだろうか。あの時に感じた感覚。俺は……期待して良いんだよな?

一生懸命という表現がぴったりの言い方をする宏に思わず笑いが漏れる。クツクツと喉の奥で笑うと宏はまたムッとした。


「さっきから、『分かんない』ばっかり言ってるな」

「うっさい!真剣なんだってば!」

「うん、そうだな。…行くよ、カウンセリング室。待ってるって言われたんだ。授業サボるとき来いって」

そう言うと、少し驚いたように宏は目を見開いた。それ程俺がそう返事をするのが意外だったのだろうか。腕を掴んでいた手がゆっくりと離れていった。



< 23 / 123 >

この作品をシェア

pagetop