メランコリック症候群
「なぁ~にしてるの?」

「……っ!!」

突然声と共に肩に衝撃がきて、しばらく上を向いたまま考え事をしていた俺の喉奥からはひっと小さな悲鳴が漏れた。驚いて振り向くと、1週間前と変わらずニコニコ笑っている白石が立っていた。

毎日色違いを着けてきているのだろうか、今日は青と白の水玉模様のバンダナとスカーフをしている。

「……一体何なんですか」

「しばらく前から見てたけど、ドア叩こうとしてたよね。来てくれたんだ?」

不機嫌を隠しもせずに眉をひそめてみても、彼女は微笑んだままだった。嬉しそうに小首を傾げて尋ねられて、どう言葉を返したら良いのかわからなくなる。

「……」

「ほら、入って入って!誰か先生が来たら面倒でしょ」

白石はドアを開けて、黙り込む俺の背中を押してカウンセリング室に入りご丁寧にもドアに掛かった看板を『open』から『close』にひっくり返して、後ろ手で鍵を閉めた。

部屋に入った瞬間、香水とか芳香剤とかとも違う甘い香りが俺を満たす。なんだ?濃いが、嫌な匂いじゃない。甘いがどこかスッキリとしていて、なんとも形容しがたい香りだった。

「いやぁ、1週間待っても来てくれないからこっちから会いに行こうかと思ってたよ。屋上にもあれから1度も来ないし」

この不思議な香りは何だろうと部屋をキョロキョロとしてはみたが、特に何もわからなかった。わかったのは、原色や如何にも目に悪そうなショッキング系の色ではなく、パステル調の色で小物類が統一されているという事だけだ。

彼女は向かい合った奥側のソファーに腰を下ろし、俺に向かいに座るよう手で指し示した。



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