メランコリック症候群
「あっ!そうだそうだ、私ね本当にお菓子とお茶用意して待ってたんだよ」

俺が向かいに腰を下ろすと代わりに彼女は立ち上がって、やたら嬉しそうに小さな食器棚からティーポットやティーカップ、ソーサーやら何やら引っ張り出し始めた。

食器棚の隣のポットからカップとティーポットを入れた鍋に湯を注ぎ、コンロに水を入れたケトルをセットしながらご機嫌そうに鼻歌を歌っている。

「私の手作りだったりケーキ屋さんのだったり、毎日準備してたんだけど高橋君来てくれないから、仕方なく放課後に遊びに来る女の子達とか、化学の山下先生とかとお茶してたんだよ」

「……そうなんですか」

「うん。お陰様で少し体重が増えちゃいましたよ?白石先生は」

にっこり笑顔を崩すことなく彼女は頬を膨らまして此方を見てきた。……いい年した大人が何て顔してるんだ。そんな事を頭では考えながら無言で見返す。

「で、今日はね、家庭科の奈緒ちゃん……じゃなくて吉川先生が今度の調理実習で作るシュークリームを試しに作ってみるって言ってたから手伝いに……というか遊びに行ってたの。そしたら10個もお裾分けして貰っちゃってね!私が買ってきたcradle.のラングドシャもあるから、一緒に食べよ」

「……はぁ」

妙に高い彼女のテンションに、俺は多分性格上なんだろうが警戒したままカチャカチャと準備をする背中を見つめた。

「アールグレイ、飲める?もしかして紅茶飲めない人だとか?」

「いえ、紅茶は好きです」

「そ。じゃあキミも紅茶ね。もうちょっとだから待ってて」

小型の冷蔵庫から先程言っていたシュークリームを取り出し、カップやソーサーとお揃いの柄の皿に盛り付け、ラングドシャが入れられた小さなカゴと一緒に俺の前に置きながら彼女は言った。

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