メランコリック症候群
「はい。あの」

「何?」

教室に戻ってしまうのが惜しい。もっと、この人と話していたい。そんな感情が帰るときになって湧いてきた。初めて話したときの、何となく神経にさわるような不快感はもうない。むしろ、この人との空間は心地よいと感じるようになっていた。

カウンセラーという職業上なのか、彼女はとても俺の心を静めてくれる。何度も言うようだが、彼女との会話に本当にカウンセリング要素があったかどうかは、定かではないが。

「毎日、何時ぐらいに学校に来てるんですか?」

「んー?学校が開いたらすぐかな。事務員さんが学校開けるのが早いか、私が校門で仁王立ちするのが早いかって感じかな」

彼女はそう言ってクスクスと笑った。

「……じゃあ、毎朝、ここに来ても良いですか?」

「もちろん良いけど、何しに来るの?」

花の世話がしたいんです。

不思議そうな顔をして小首を傾げる彼女にそう答えると同時に、チャイムがなった。彼女は俺の言葉に納得したように頷くと、教室に戻っていく俺に手を振った。

「明日から、何時に起きようか」

花の世話を口実に毎日彼女に会いに行く。気恥ずかしさはあったが、取りあえずは明日の朝の約束ができて良かったなどと廊下を歩きながら思う。

家から何か花を持ってきて、カーネーションと一緒に生けようか。

シュークリームの入ったタッパーを手のひらで隠すようにして、俺は教室の戸を開けた。

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