メランコリック症候群
「あ、もう閉館なんだ」

「全部終わらなかったな。明日また続きやるか?」

「うーん……家で終わらせてくる。明日解説して?」

「分かった」

そんな言葉を交わし合いながら急いで帰り支度をする。美月が学生鞄に触れる度に大量のキーホルダーが鈍い金属音を立てた。

「まだ誰か居るのか?」

机を元に戻してリュックを背負うと、担任の山下の声がしてドアが開いた。どうも駄目だ。四六時中白衣を羽織っているこの化学教師をどうしても好きになれない。思わず目が細くなる。

「あらあら。高橋君に美月さん、こんな時間までお勉強?」

「あー!もっちゃんに由香里ちゃん!」

もっちゃんこと山下と白石が、ドアの隙間から顔を覗かせた。どうして見回りまで一緒にしてるんだ。2人ができているという噂は本当なのだろうか。アイツの隣で笑う彼女を見るだけで、意味もなく腹を立ててしまう自分がいる。

山下は嬉しそうに声を上げた美月に笑顔で片手を上げて返した。

「おぉ、美月か。勉強おつかれさん。高橋。お前、遅くまで学校に残って受験勉強は結構だが、俺の授業にも出ろよ」

「分かってます。もうサボったりなんかしません」

我ながら愛想が皆無の声色だ。白石が露骨に眉をひそめ、美月はチラリと俺を見て不思議そうにまばたきをした。


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