メランコリック症候群
「別にいいじゃんかぁ」

「何がだ。そんな事いい加減にすんな」

叩かれた部分を手で押さえながら美月が不満そうに言う。

誤解されるだろうが。

そんな言葉が浮かんだが、すぐに消えていった。

誤解されるって、誰に。白石にか?
誤解されたとしてどうなる。別に構わないだろう。白石はただの先生だぞ。

でも、何故か嫌だった。彼女には誤解されたくなかった。悶々とこの不可解な感情は何なのかと考える。

「……高橋君のばか」

俺の横で、美月がそう小声で呟いたのが、聞こえた気がした。

「なんだ、そうなの。随分と仲が良いから、付き合ってるのかと思った」

白石の声が暗闇から聞こえてくる。声が、少し笑みを含んでいるように思う。そんな彼女とは対照的に、美月は不機嫌そうに黙り込んでしまった。

「まさか。美月だって俺と付き合ってるなんて思われたら迷惑ですよ。そうだろ?」

「……」

同意を求めても美月は無言で俯いたままだ。珍しい。美月が誰かを、と言うよりも、俺の事を無視するなんて初めてじゃないか?

強く叩きすぎただろうか。真面目にそんな事を思いながら、何とか機嫌を直させようと掛ける言葉を考えるけれど、全くもって思いつかない。

さて、どうしたものか。

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