メランコリック症候群
「……変わった?俺が?」

「うん」

変わったって、何が。

確かに授業をサボらなくなって、毎日美月達と一緒に勉強会を開くようになって毎朝カウンセリング室に通うようになったが、俺自身は何も変わってはいないだろう。

「笑ってくれるように、なったよね」

「……そうか?」

隣を見ると、美月は何やら嬉しげに微笑みながら此方を見ていた。

あ、そこを右だよ。

彼女が指さすように路地を曲がって歩き続ける。随分と遠いようだ。もう結構な距離を歩いているような気がする。何故自転車通学をしないのだろうか。

「高橋君さ……今、カウンセリング室通ってるんだって?」

「おいおい。それ誰に聞いたんだよ」

「新居君」

あいつ。
カウンセリング室に通ってるなんて、普通の人は知られたくないはずだ。バレないようにわざわざ朝に行っているのに。

口止めしてなかった俺も悪いかもしれないが、明日ちょっとした復讐をしてやろう。……宏の大好物のプリンに醤油でもかけてやろうか。

「それってやっぱり、由香里ちゃんのおかげなのかな」

美月の微笑みに、一瞬陰が出来た気がした。けれどすぐに、塀の上から俺達に向けて一声鳴いた三毛の猫に笑いかけて、その陰は消えた。猫が彼女の手にじゃれて、のどを鳴らしている。

そんなにも変わったのだろうか。まだ、『笑顔の練習』とやらをやり始めて1週間程しか経っていないのに。自分では分からないから、どこがどう変わったのかも定かではない。



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