メランコリック症候群
「そうなの。じゃあ丁度良かった。近くにホットサンドが美味しい喫茶店が出来たって女の子達が教えてくれてね、今日はそこでお昼ご飯食べようと思ってるんだけど、一緒に行かない?1人だなんて寂しいし」

「……別に、良いですけど」

俺の返事に心底嬉しそうに笑って、彼女は俺の正面に腰を下ろした。どうやら俺が来るまで生徒からの相談の手紙を読んでいたようで、机の上には10通余りの便箋が散らばっている。

「じゃ、それで決まり!私もまだ仕事残ってるから、1時間ぐらいしたら出よう」

「はい」

散らばっていた手紙をまとめて仕事用のデスクに置くと、彼女はノートパソコンに向かって何やら作業をし始めた。仕事を始めたら彼女は一言も喋らなくなる。まあ、それが当たり前なのかもしれないが。

「……」

急に訪れた静寂に、窓から蝉の鳴き声やキーを叩く音が混じる。夏休みに入って以来朝には来ていなかったので、彼女と2人黙り込んだままカウンセリング室で過ごすのが随分と久しぶりのように感じた。

さて、俺も勉強するか。
小遣いを叩いて買ったiPodをポケットから取り出して、イヤホンを耳に着ける。勉強用だと人には言いながら、ただの好みでクラシックばかりを入れたiPodは、俺の勉強には欠かせない物になっていた。

雑音一つ聞こえてこないような大音量でラフマニノフのピアノ協奏曲を流しながら、俺は英語の長文読解を解き始めた。



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