メランコリック症候群
俺の集中は、白石の突然の行動でブツリと途切れた。お気に入りの1つであるG線上のアリアをBGMに問題を解いていると、彼女がいきなりイヤホンを引き抜いたのだ。

驚いて顔を上げると、白石が不機嫌に此方を見ていた。……いや、不機嫌になるのはこっちなのだが。

「何なんですか……」

「何度も呼んだのに返事しないんだもん。それに、こんなに大音量で聴いてたら耳が悪くなるよ」

イヤホンを彼女から取り返しながら時計を見ると、もう12時をまわっていた。恐らく、これから昼食に行くから呼ばれていたのだろう。

「お昼食べに行こ。また戻ってくるから財布持っていくだけで良いよ」

そう言った彼女も、金のチェーンが付いたバッグ風の財布を持っただけで身軽な様子だった。少女趣味の入ったような赤い財布を見ていると、あんた一体何歳だよという感じなのである。

あえて、それにはつっこまないようにして、俺も財布を腰のポケットに入れた。

「その店って遠いんですか」

「んー。徒歩10分ってとこかな。車の方が良い?」

「歩きで良いですよ」

2人で昼間のくせに薄暗い階段を下りながら思った。……たかが1時間そこらの散歩に、何でこんなにも心惹かれたのだろうか。散歩の場所がフラワーフェスタを開いている公園だからか、それとも相手が白石だからか。知りたくもないが。



< 61 / 123 >

この作品をシェア

pagetop