メランコリック症候群
「……おいしい」

不意に口からもれた感想に、彼女は本当に嬉しそうに笑った。食べている様子を見られていたという事にその時初めて気が付いて、少し複雑な気持ちになる。

「良かった!もっとあっさりした感じの物食べたかったんなら申し訳ないなって思ってたけど、大丈夫そうでホッとした」

「まぁ、外もこんなに暑いし本音を言えばあっさりした物が食べたかったんですけどね」

その返答に彼女は苦笑して、ミックスジュースを飲んだ。それから俺もピザを分けてもらったり、幸せそうに食べる顔を眺めたりしながらゆっくりと昼食を楽しんだ。

「本当においしくてびっくりしました」

しっかり、がっつり、食後のデザートまで頂いてから会計を済ませ店を後にした。彼女はといえば、レジの横に並べてある手作りのパンやらクッキーやらを購入して、上機嫌だ。

「ほんと!デザートのジェラートも美味しかったし、満足満足。また来ようね」

「そうですね」

陽炎で揺れるアスファルトの道を急ぎ足で歩き、学校に帰る。また来ようだなんて、そんな決まりきったような言葉にも期待を寄せる自分が気持ち悪い。彼女に変えられていく自分が嫌だと心底思った。


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