メランコリック症候群
カウンセリング室の冷気は少し生温くなっていた。とはいえ、外の蒸し暑さとは比べ物にならないほどに心地良さ。部屋に入った瞬間に香る、あの花でも香水でもない芳香とコーヒーの香りは、いつの間にか俺を安心させる要素の1つになっていた。

「ぷはーっ生き返る!」

彼女は部屋に入って開口1番そう叫んで、その勢いのままエアコンのスイッチを叩くように押す。

「……スイッチ壊れますよ」

「え?あぁ、ごめんごめん。これ、癖なんだよね」

どんな癖だよ。笑う彼女に腹の中でツッコミながら、俺はソファーに腰を下ろした。物理の問題が激しく中途半端なところで解きかけになっている。

「やっぱり外はまだまだ暑いから、夕方になったら行こうか」

「そうですね」

彼女はそう言ってデスクの上からチラシを1枚つまみ上げ、ひらひらと揺らして見せた。

この学校の近くにある市立の公園で毎年開かれているフラワーフェスタ。ちょとした有名行事で、多くの観光客が県内外から集まる。

俺も密かに毎年通っているのだが、今年は止めておこうと考えていた。何だかんだ言っても、俺はやはり受験生。いくら好きだといっても、そういった事に現を抜かしている暇はないのだ。しかも、何分この御時世、この時期の野外はまるで蒸し風呂状態。行く気も失せると言うものだ。



< 69 / 123 >

この作品をシェア

pagetop