メランコリック症候群
近くにあったベンチに座らせると、途端に彼女は足先の丸いデザインの白いミュールを脱いで、足をぶらぶらし始めた。

「俺、なんか買ってきますよ」

「あ、なら私ソフトクリームがいいな!」

俺の言葉に、疲れたなんて嘘じゃないのかと思うほど明るい返答に、頭痛がする。わかりましたとだけ返して、視界の隅にある屋台へと歩みを進めた。近くの自動販売機で冷たいコーヒーでも買って飲もう。そんな事を考えて始めた瞬間に渇きを訴える体が、鬱陶しい。

少々急ぎ足で歩きながら考える。

あの人は自分がカウンセラーだということを忘れてるのか?

これじゃあ、まるで……まるで?

そこまで考えて、俺は弱く頭を振った。最近思考が可笑しな方向に傾きがちで、困ってしまう。

これじゃあまるで、デートかなにかのようじゃないか。俺も彼女も、医者を目指す高校生とスクールカウンセラーという退屈な肩書きを脱ぎ捨てて、男と女として過ごしているようで。




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