メランコリック症候群
内ポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。慣れてないせいで、白いグローブが鬱陶しくてたまらない。

「こちらへどうぞ」

荷物を受け取り、空いているテーブルに案内する。その間背後から聞こえてくるひそひそ話に、笑顔が歪むのが分かった。半分が優しさで作られた某頭痛薬が恋しい。

椅子を引いて彼女達を座らせてから、次は何をしなければならないのか頭の中のマニュアル本のページを捲った。次は、お冷やとお絞り、それとメニューだったか?

朝倉達のお怒りをかう前に何とか仕事を終え、俺は彼女達が見える位置で背筋を伸ばして突っ立った。流石正統派を目指しているとだけあって、教室の中は上品な静けさが漂っている。

流れるようなピアノの旋律に耳を傾けながらぼうっとしていると、それを断ち切るようなベルのすんだ音が俺を呼んだ。

「如何いたしましたか?」

メニューを広げて長いこと思案をしていた彼女達だったが、やっとの事で注文するものを決めたようで、小さな金のベルを鳴らしたのだ。俺の一時の安らぎが邪魔されたようで思わずへの字に口が曲がるが、悟られないように小さく息を吐いて気を引き締めた。

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