メランコリック症候群
「じゃあ、私はチーズケーキを頂くわ」

「わ、私はガトーショコラで」

どもる東山と七海の所望の品も盛り付け、それぞれ手渡す。後は後ろに控えて、紅茶を注いだりケーキを盛ったりの繰り返しだ。出口まで案内して荷物を渡して、笑顔で「いってらっしゃいませ」と告げて終わり。

小さなデザートフォークと、細かい模様が彫られた白い皿が静かに乾いた音色を奏でる。幸せそうにケーキを口に含みながら微笑み合う彼女たちを横目に、腹が鳴りそうだと変な焦りを感じながら、俺はもうすぐで訪れる至福の時に想いを馳せた。



「おかえりー!じゃあ、グラウンド行こっか」

早々とエプロンを脱ぎ捨て、見慣れた間服姿になっている宏は、待ち切れないとばかりに俺の燕尾服の裾を引っ張った。9月とはいえ真夏のように暑いグラウンドを思うと、俺は涼しげな半袖のカッターシャツで爽やかに笑う宏を大変羨ましく感じてしまう。

俺は上着を脱いでパイプ椅子にかけ、隅に置いてあるリュックから財布を取り出した。休憩にはいることを告げて教室を後にすると、廊下は随分と落ち着きを取り戻しているようだった。行列も微々たるものとなり、人通りも少ない。

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