メランコリック症候群
「大分人通りも落ち着いたな」

それでもぽつりぽつりと出来ている人だかりを避けながら、昇降口までの道のりを軽く駆け足で通り抜ける。廊下や各教室は普段のストイックな勉強のみを目的としたものではなく、無法地帯並に変貌を遂げていた。

「だなー。全く、吹奏楽部様々だよ。昼飯食えないかと思った」

さっきまでの元気はどこへやら、珍しく溜息まで付いて肩を落とす宏の背中は、幾分小さく見えた。好きなことばかりをするのも、そう楽ではないらしい。

靴を放るように落とすと、そこだけ別世界のように静かな玄関に乾いた音が響いた。中に入って涼めばいいものを、何人かここらの地区の女子高生達がアイスを片手に木陰に寄り集まっているのが見える。

案の定、ドアを開けると真夏真っ最中と言わんばかりの熱気が俺の頬を掠めながらすり抜けていった。思わずドアを閉めそうになるのを堪えて体を支えると、突然に鮮やかさを増したセミの騒ぎに汗が滲む気がした。

「あっちー……こんな中で焼き鳥とかたこ焼きとか、拷問だよなー」

「そうだな」

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