メランコリック症候群
「バカかお前。そんな金どこにあるよ。ちょ……待て待て!本気にするな」

本気で全部を包装しようとする美月を慌てて止めると、何とも不満そうな目でじとーっと見つめられて思わず息が詰まった。何故だか俺は女子のこういった表情がすこぶる苦手なようだ。女子に責めるような視線を向けられると、非常に居たたまれなくなる。

大体、今ざっと見ただけでもたこ焼きだけで10パック以上はあるんだ。文化祭の露店であったとしてもやっぱりそれなりに値はするものなので、焼きそばや焼き鳥を入れると軽く5千円は越えるだろう。一般的な男子高校生には痛すぎる出費だ。なんてバカバカしい。

「ん?もちろん、楓ん財布のなか」

「ふ ざ け ん な」

当然の如くのたまう宏に笑顔で返すと、若干周囲の温度が下がったのを感じた。けれども流石の新居 宏と言うべきか、俺の自称精神ダメージ中の上攻撃『冷笑』は全く効果を見せなかった。せいぜい地球温暖化の感覚的な対策になっただけだ。

全部というのは兎も角として、全種類を買うという発想が俺の凝り固まった頭には出てこなかった。非常に魅力的で欲求を満たし、さらに優柔不断ド真ん中人間に優しい発想だ。経済的ではないけれど。
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