インテリと春


雨が降ることを“空が泣いている”と例える。

テレビで聞いたのか。本で読んだのか。一体どこから覚えたフレーズだったんだろうと、今更いくら考えてみてもその答えはいつだって母に辿り着く。とはいえ、きっと母のことだから、自分もどこぞからの受け売りに違いないだろうけれど。

“お母さん、雷さまが怒ってる。怖い”

青空が雨雲の後ろに隠れ、太陽も抵抗することなく暖かな光を諦めた時。上空からは、雨と呼ばれる水滴が数え切れない程降り注いでくるのだ。

特有の効果音を立てて、時には雷という横暴な友人も引き連れてくることがある雷雨。幼い頃の自分は、その雷鳴に酷く怯えていたらしい。雨ではなく、怒鳴り声のような雷鳴に。

すると母はこう言った。

“空に雷さまなど居やしない。こうして雨が降るのは、ただ空が泣いているから。同時に雷が鳴るのは、空が大声を上げて泣いているから”

何故空が悲しみ泣いていたのかは知らない。それどころか、嬉しさのあまりに泣いていたのかもしれない。けれど、必ず決まって空が泣くのは、春の季節。じめじめと鬱陶しい雨期が含まれている夏でもなければ他の季節でもない。

雨は、春になるとよく降るもの。あたしのこの考え方が誤りだと教えてくれたのも、やはり“母”だった。

「ぎゃあああ!」

「ちょっとアケ、うるさい」

「だって雷ああああ!」
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