インテリと春
黙々と授業が行われていた教室に、彼女の悲鳴がそれはもう盛大に響き渡る。おそらく本人には恥も外聞もないのだろう。雷という強敵から自分を護ることだけに必死だ。いや、必死というよりも、本当に死んでしまうんじゃないかという顔付きをしている。
「もう帰れば?」
「それはあたしに死ねって言ってんの!?ひい!また光った!」
「違うって。今にも死にそうだから帰った方が賢明じゃないですか?って話」
「無理だろ無理だろ」
この大雨と雷の中に一歩でも足を踏み入れたら即死する自信がある!と拳を固め、アケミは再び机の下へと隠れた。そして、窓の外が光る度に、爆発音のような雷鳴が鳴る度に、教室内にも悲鳴という名の雷を落とし続ける。その繰り返し。
ところで、いつもは授業などろくに出席しないアケミが、何故雷を堪えてまで大人しく教室に居るのかと言うと。
「吉野ー大丈夫かー」
「やすだ~助けて~やすだ~」
安田が自習の監督に来ている。ただそれだけの理由だそうで。加えて雷も怖いから、あたしにも「側に居ろ」との命が下ったのだ。
「やすだ~死ぬ~助けて~お願い~」
「助けてやりたいのは山々だが俺にどうしろってんだよ」
「抱き締めろ」
「無理だ」
念の為に解説しておくと、今この場に居るのは無論あたしとアケミと安田の3名のみではない。クラスメートの連中も誰一人欠けることなく揃っている。その中での騒ぎ様だ。
出来ることならあたしも素知らぬ顔をしたいところではあるけれど、涙目の友人がまるでハムスターのような目をするものだから放っとく訳にもいかない。
「マユ~助けて~」
「助けてったって…じゃあ一緒に帰るか」
「おお!それがいい!そうしよう!」
「つーことなんで安田、あたし等はこれで」
「お前等の自由さには感服するよ」