インテリと春
暫くして、アケミの姿が見えなくなったのを確認し、随分と昔から動くことを忘れてしまっていたアンドロイドのような自分の身体をようやく動かす。それはまるで、録画した映像をひたすら巻き戻すかのような行動。
まず、一度は履いて下校してしまおうかと考えたローファーを再び下駄箱へ戻し、脱いだ上履きを再度履き直す。そして、窓の外の雷にびくびくと怯えながら歩いてきた廊下を逆戻り。仕舞いには、階段をも上へ上へと上り始めてしまった。
一体あたしはどこへ向かっているんだろう。安田の居る教室へ?それともただ歩いているだけ?
違う。あたしはどこかへ向かっている訳じゃない。先程の昇降口から、水溜まりの上に降り続ける雨から、逃げたかった。
キーンコーン…
カーンコーン…
頭上で鳴り響く4限目終業の合図にも気付かぬまま、あたしは2階の窓の下に望める泥だらけの地面を見下ろした。