インテリと春
「安、田…」
「んなとこで何してんだよ。人様の授業ほっぽりだして、吉野と帰るんじゃなかったのか?」
廊下を見回すと、自分が居たのは職員室の真ん前。こちらを一瞥してくる教師が一人、また一人と職員室へ入っていく。ああそうか。丁度4限目が終わったところなんだ。
安堵感によって身体中の力が抜けたように窓際の壁へ背中を預ける。妙な冷や汗を確かに感じながら、フウとこぼす溜め息。
「おい中川、大丈夫かお前?顔色悪いぞ」
「何でもない」
「…吉野は?」
「雷が遠くなったからって、一人で帰ったよ」
「で、お前はなんで帰んなかったんだ?」
返す言葉が見付からない。特に動揺を見せているつもりもないけれど、あたしの両手はベージュ色のゆったりとしたカーディガンのポケット内へ隠れたまま。一方の両足はと言えば、いつものように紺のソックスに包まれた状態で片足だけがぶらぶらと遊んでいる。そんな中で、両の目が捉えたのは所狭しと大学の情報紙が貼られている職員室の白い壁。