インテリと春
「…どこで食うんだよ」
白いコンビニの袋をぶら提げて「視聴覚室」と一言答える安田の昼飯は明らかに物淋しい。大の男がそれで足りんの?言おうとしたが、逆にああだこうだと小食な部分を攻められそうなので止しておく。
やがて、辿り着いた視聴覚室の扉を慣れたように開ける安田。
「お、今日は先客無しか。ラッキー」
「いつもここで食ってんの?あんた」
「大体は。結構穴場なんだぞ?一人でテレビ見ながら静かに食えるし。んでも最近女子の先客が多くてよーいまいち落ち着かねえんだわ」
それはおそらくあんたの追っ掛けだ。と言ってやる程あたしはお人好しではないし、多分当の本人も大方の予想はついている筈。
「よっこらせ」
「うわ、ジジくせー」
「黙っとけクソ餓鬼」
おもむろにテレビの電源をつけて、コンビニの袋から安っぽい弁当を取り出す野郎。その様子を眺めながら、あたしは少し離れた席へ腰を下ろす。
ほら食え。安田の科白と共にこちらへ飛んできたのは、辛子明太子のおにぎり。
「いいの?あんたの大事な昼飯がひとつ減るんじゃね?」
「お前みてえなガリガリ娘を目の前にしながら俺だけ食えるかっての」
「優しいんですねー安田“先生”は」
「…嫌味にしか聞こえねえのは俺の耳がイカレてんのか?」