インテリと春

黒縁の眼鏡を机上に置き、律儀にも「いただきまーす」と口にしてから弁当へ箸をつける。この調子では自分で弁当を作ることもたまにあるんだろう。なんて思ったり。

「あんたがここで毎日昼飯食ってるって知ったら、喜んで通い詰めると思うよ?アケミの奴」

「吉野かーあいつももう少し落ち着いてくれりゃあ良いんだけど」

「そう言うなって。アケミは本気であんたにご執心なんだから」

「そういうお前も俺に言ったよな?本気で惚れてるってよ」

「言ったよ」

「アレ、どこまで本気だったんデスカ?」

「どこまでも何も、今だって本気だよあたしは」

「ふーん…」

と虚ろげに呟く安田の視線の先にはテレビ画面。その中間辺りに座っていたあたしは、未だに降り続ける雨を睨むようにして窓の外を眺めていた。

アケミは今頃どこを歩いているだろう。そろそろ駅に着く頃だろうか。ちなみに、アケミの家は駅を二つ挟んだ先にある。そしてあたしの家はと言うと、これが実家ではなくて。高校へ上がると同時に歩いて15分の近場のアパートで一人暮らし。実家は隣県にあり、電車通学も可能なことは可能だったけれど、いくつかそれを拒む理由があったのだ。
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