インテリと春
それはもう改善されただろ。と自分の頭髪を無造作に撫でてみせる安田の髪は、一ヶ月ちょっと前の始業式の時とは打って変わって黒くなっている。しかし相変わらずの中途半端な髪の長さだ。なんて思いつつ、のんびり弁当を味わう安田をふと見たら、思いもよらずかち合う視線。
そのまま黙って目を合わせていられないあたしは、やっぱり安田に惚れてるんだろう。
「お前ってさ。生活態度だの制服だの色々と注意されるくせに、化粧もそんなに濃くないわピアスも開けてないわ、吉野でさえ染めてる髪にも手ぇつけてないわ…もしかして地は真面目なの?」
「知らねー」
「そこまで伸ばしてる髪も失恋したら切るとか?実はそんな古い考え持ってたり?」
「うるせーな」
「あれ?でもお前一回俺に振られてんじゃねえかよ」
「失恋ごときで切るかバーカ。好きで伸ばしてるだけです、ワリーかよ」
「いんや別に。俺は好きだけどね、ロングヘア」
何それ。どういう意味だよ。場合によっては殴るぞコラ。
安田から貰った辛子明太子のおにぎりも残り一口程度。あたしは膝を抱えた状態でそれを頬張り続ける。
安田は優し過ぎるんだ。お人好し過ぎるんだ。だからついつい寄り掛かってしまいそうになる。でも、それだけは出来ない。アケミがあたしの“寄り掛かれる誰か”なら、安田はあたしにとって“寄り掛かってはいけない誰か”なのだ。