インテリと春
「あたし、親居ないし」
視聴覚室のテレビ画面では、正午過ぎのニュースを淡々と流している。
「父親は健在だけどね。何より仕事が命であたしのことなんかどうでもいいらしいよ」
“それでは続いてのニュースです。本日午前8時頃、春蚕市の路上で大型トラックによるひき逃げ事故がありました”
「母親は死んだ。小学生の時に」
“被害者は市内在住の33歳女性。近くの目撃者によると、女性は青信号を確認し渡っていたとのことで、トラック運転手の一方的な信号無視とみられています”
「だから、誰も居ない」
“なお、加害者は依然として逃走中。その時間帯には大雨警報が発表される程の豪雨に見舞われていたとみられ、現場検証はさらに難航すると…”
「あたしにはね、もう誰も居ないんだよ」
どうか耳をすり抜けて欲しいと願った今のニュースは、ことごとくあたしの耳に入り、何度も何度も見えない壁に体当たりを繰り返すかのようにしながらずっと頭の中を駆け巡っていた。
脳裏に甦る、なんて生易しいものじゃない。今この瞬間、自分の目の前にあの時の光景が広がっているかのようで。
「親が居ねえくらいで何だってんだ」