インテリと春
とても冷たい科白の筈なのに、安田の言葉は人肌のように温かかった。
「俺も餓鬼の頃は同じようなもんだったぞ?歳の離れた弟が居んのに、親父はごろつきでおふくろとも離婚しちまってなあ…息子二人を女手一人で育てながら、毎日泣いてるおふくろを見て見ぬふりして…俺は遊び回ってばっかでよ」
食べ終えた弁当の空箱をコンビニの袋に詰め、無事スプリンクラーが作動することなく一服出来た吸い殻を自分の携帯灰皿に押し込めている安田。もう昼休みも終わる頃だろう。
「そんな時に、どうしようもねえ俺を叱ってくれた人が居てよ。おかげで今はこうして教師の卵にもなれた訳だ」
その人にいつか再会して、一人前の教師になった自分を見せるのが夢だと、安田は笑顔で言った。
ああそうか。以前あたしに諭してくれた言葉も、きっとその人から与えられた大事な物だったに違いない。安田はとても奔放な性格で、正直まだ少々教師らしからぬ部分が残っている。けれど彼が描こうとしている教師という未来像は、確かにあたしやアケミのような生徒を救ってくれていた。
「それにお前肝心なこと忘れてねえか?自分には誰も居ねえの何のって抜かす前に、ちゃんと周り見てみろ」
「周り?」
「吉野が居るじゃねえか、お前にはよ」
言いながらこちらへ歩み寄ると、安田はおにぎりのゴミを入れるよう袋を差し出してきて。大人しくその中へゴミを入れるあたしに「もう帰るのか?」と問い掛けてくる。
「…浅井んとこに寄ってから、帰る」
「そっか」