インテリと春

あれは入学して三週間。誰とも会話を交わすことなく、その日も廊下で一人、晴れ渡った窓の外を眺めていたあたしにふと声を掛けてきた彼女。

周りの生徒は皆、インテリというマネキンが何体もずらりと並べられたように模範的な格好をしている。しかしその中で、明らかに浮いている彼女の栗色のボブヘアはとても印象的だった。だから思わず見惚れてやろうと思ったのに。

“ねえ、名前知んないけどさ。ちょっとナプキン恵んでくんない?予定外の大出血で困ってんの”

何こいつ。初対面の人間に対する第一声がそれか。確かにそのような下品極まりない思考力では困ることも多々あるだろう。なんて思いつつ、その時あたしは初めて高校という新たな生活の場で無意識のうちに笑顔を見せていた。

あれからもう2年。テレビや雑誌で随分聞き飽きたフレーズだけれど、時が経つのは本当に早い。

「相変わらずだね、あんたも」

「じゃあ訊きますが?中川マユコの言う“かわいい言い方”ってどんなもんよ?」

彼女持参の弁当箱で、怯えたように肩をすくめていた玉子焼きが無惨にもリフトアップされていく。そしてアケミの胃袋という行き先へ無言のまま旅立って行った。あーあ可哀相に。

「そんなん訊いてどうする」

「理由なんか無いって」

「まあいいや…例えばそうだね。身体に悪いよーとか?ぶっ倒れちゃうよーとか?」

「確かにあんたは小食だけど、倒れる程か弱くもねーだろ」

「うーわムカつく」

本日も昼食を抜いた自分の捨て台詞。取り分けダイエットに励んでいるだとか、弁当を用意する余裕も無い程金に困っているだとか。そういう事情はどこにも無いけれど。
< 3 / 51 >

この作品をシェア

pagetop