インテリと春

惣菜などで市販されている物と同じくらいに見た目が綺麗な黄色の玉子焼き。それを弁当箱の隅からひとつ摘まんで口へと運んだ安田が「そうか今日から夏服かー」なんて適当に呟く。

やっぱり思った通りだ。自分であれだけの弁当を作れるのなら、歳の離れた弟とやらにも作って持たせることもあるんだろう。男のくせに手先は器用なんだなあ。と、くすぐったくなるような気分で思っていた時。隣でまたもや的外れな尋問を始めたのはアケミである。

「何その弁当!彼女が居るなんて、あたし聞いてねーよ安田」

「そんなもん居ねえし話してもいねえ」

「安田は歳の離れた弟の世話してんでしょ?」

「ウソ!弟さん居んの!?んじゃよろしく言っといて」

「何をよろしく言えばいいんだ?」

「“いずれ義姉になる吉野アケミです”って。フルネームでちゃんと伝えろよ」

安田が腰掛けていた席のすぐ隣に座り込み、食べかけだった自分の弁当箱を広げながら当然のようにアケミは喋り続ける。これも今年の春から随分見慣れた日常茶飯事の光景。

「義姉も何も、俺の弟はお前等と同じ歳だ」

「げ。かわいくねー」

それは初耳だ。安田の弟なんて、きっと相当のバカに違いない。けれど安田と血縁関係があるのなら、それなりに見てくれも似ていて女子もたかるような弟なんだろうか。バカだけどどこか優しくて、あったかくて、頼りたくなるような、そんな存在。

なんて、青春真っ只中の乙女のような思考を巡らせている自分にふと気付き、一瞬気分が悪くなる。こんなもの、あたしらしくない。
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