インテリと春
「テレビつけるよー」
「どんぞー。あたし麦茶飲むけど、あんた何か飲む?」
「炭酸は?」
「ある」
「んじゃそれで」
決して広くもない1LDKの部屋だが、一人で暮らすには充分過ぎる程。最低限の物は全て揃っているし何ひとつ困ることはない。強いて言うなら、隣の部屋に住んでいる若いご夫婦。その赤ん坊の夜泣きが時折酷いということくらいだろうか。
コポコポコポコポ…
冷たくて涼しげな音を二つのコップへ注いでいく。ひとつは近くの店で購入した何の柄も無い透明な物。もうひとつは実家から持ってきた子供っぽい柄の物。
「ほーれお待たせ」
「ん、ありがと」
炭酸入りの柄のついたコップと一緒に大きな菓子袋を手渡せば、まるで暗黙の了解のように彼女はそれを開封。バリバリと頬張るその姿を見て、こいつの胃袋はブラックホールなのかと今更ながら言葉を失った。
「もう6月かー」
早いもんだね。ぽつりと呟くアケミの言葉を背に、涼やかな外の風を入れようと窓を開ける。もうじき夏だと囁くような柔らかい風が、部屋のカーテンをゆらりと揺らした。信じられない。こんなにも気持ちのいい空から、またしても雨が降り出すなんて。