インテリと春
自分で買い求めた赤い丸テーブルの上。実家から持ってきた例のコップの中では、シュワシュワと小さな泡沫を上らせている。
「安田がさ…」
「うん。安田が?」
アケミには人様の心情を察する超能力でも備わっているんだろうか。ただ一言、安田の名前を虚ろな声音で発しただけだというのに。今の彼女は、安田に興味を示しているのではなく、あたし自身の話に耳を傾けてくれているかのようで。
「安田が言ってたんだけどさ…あいつ随分前に親が離婚して、今は母親と弟と三人家族なんだと」
「…へえ」
「昔は色々荒れてた時期もあったみたいだけど、なんかあいつも頑張ってるんだなあと思って…」
「思って?」
「自分やっぱり安田に惚れてんだなあと思った」
他人事を心ここに在らずの状態で話しているような、とても奇妙な口振りなんだろうと自分でもつくづく感じた。けれどそれがあたしの本音であって、アケミは隠す必要も恥じることもない存在だから、ポロポロと心の壁のペンキが剥がれ落ちるように容易く話してしまう。