インテリと春

「マユコは似てんだよ、安田と」

「は?」

「だから多分あたしは、あんたからも離れらんないし、安田のことも気に入ってるんだと思う」

そう言って、飲み干したコップを丸テーブルの上に置くアケミ。空になったそれを眺めていると、遠い遠い記憶が指先でつつかれているかのようだ。子供の頃に買い与えて貰ったそのコップに、並々と注がれた見えない思い出を。

「無理とか言って最初から放り出すなよ?本気で安田に惚れたんなら、最後まで惚れ通しなさい」

「…何それ。あんたはどうなんだよあんたは」

「あたしはマユの為なら喜んで身を引くよ?」

「…うそくせー」

「ホントだってば。あたしこれでも相当嬉しがってんだよ?“馬鹿な男”に少しでも気を許せるようになったんなら、それはマユコにとって大きな一歩だろうし」

まるで自分のことのように心配してくれる。インテリが集まるだけのくだらない高校で、偶然にも出会った彼女。それは安田も同じで、この二人に出会えたことがどれだけ幸運な偶然だったのかと、時々世界に手のひらを当てて思い知りたくなるんだ。

「安田が居なかったらアケミに惚れてたわ、あたし」

「やめてよ気持ちワリーな」

「あははは」
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