インテリと春
暑苦しい紺のソックスを脱ぎ捨てて、窓の外まで響けと言わんばかりに大笑いをし合う。一応言っておけば、アルコールなど勿論入っていない。
「あー腹痛えー」
と、その時。部屋に備えてある唯一の電話が突然鳴り出した。気を利かせてテレビの音量を落とすアケミに「ごめん」と軽く声を掛け受話器を取る。
「もしもし、中川です」
話したくない。簡潔に言えばそういう相手からの電話だった。あたしは思わず曇る表情をアケミに見られぬようキッチンの奥へ向かいながら話し続ける。その先で、今朝方使ったマグカップを適当にすすいだり、意味もなく冷蔵庫を開けてみたり。不自然な行動をとればとる程ますます不自然に見えていくのは分かっていたけれど、他に気を紛らわす方法が見付からなかった。
数分後。今度は熱湯3分のカップラーメンどころか、躾のなってない犬に「待て」をさせる時間よりも短かったと思う。先程冷蔵庫から取り出した炭酸飲料のペットボトルと受話器を手にリビングへと戻れば、アケミの視線を奪っている白い紙切れ。
「勝手に漁んなって」
「コレさ、もしかして今月分のレポート?」
「そうスけど」
「やっぱり。手ぇつけるのホント早いねーあんた」
赤い丸テーブルの下。そこへ隠れるように積み重なっていた教材の上に、さらに積み上げられていたレポート用紙がアケミの視線を奪っていたらしい。