インテリと春
今はゴールデンウィークを終えて5月の半ば。否が応でもじきにやってくる梅雨という雨期を目前に、今年度の春から夏の出だしにかけてもあたしの食欲はまたもや失せていくばかりで。
時たま雲行きが怪しくぐずり出すだけでも、胃の調子が悪くなったり頭が痛んだりする。最早トラウマと認めざるを得ないそれだけの過去が、あたしの“春”と“雨”にはべっとりとへばり付いて離れないのだ。
しかし、その根本的な理由を隅々まで知り尽くしているアケミは、いつもあやふやに話をつつくだけで核心には触れようとしない。ただそれだけの気遣いが、あたしには何よりも嬉しかった。
「そういやマユコは提出した?今月のレポート全教科分」
「あー現国がまだ」
「あらま珍しい。毎月初めの二週間で片付けちゃうあんたが?残りあと一週間だよ。大丈夫?」
「現国なら提出しなくても大丈夫でしょ、担当安田だし。そういう君はどうなの?提出完了?」
食った食った、とすぐに話を逸らすのは彼女の十八番。入学当初から伊達に2年以上もつるんでいた訳じゃない。ゆえに上手く逃げられた会話を殊更責め立てることもせず、あたしはいつものように昼食を済ませた彼女へ「購買まで付き合って欲しい」と軽く声を掛けるだけだ。
きっとあたし等の繋がりは、どこにでも転がっているありきたりな友情より、至極軽薄で下品なものなんだろう。たとえそうだとしても、一番居心地が良くて、どんな事だろうと曝け出せる間柄なら、何よりも信頼出来るに違いない。