インテリと春
あたしは行き場のない感情を押し込めて、強く強く唇を噛み締める。
安田は悪くない。そんなことは分かっていた。けれどいつだって、あたしやアケミは好き放題やりたい放題。その皺寄せが、いずれ安田に向けられるとも知らず。
「…吉野はどうした」
「バイトがあるって、帰った」
「お前等よ、本当にこのままでいいと思ってんのか?本当にいつまでもこうしていられると思ってんのか?」
何それ。
「もう今年で卒業だろ。周りの連中はとっくに進路だ何だって進み始めてる」
何なんだよ、それ。
「お前もいい加減に前を見ろ。将来のことしっかり考えやがれ」
太陽のような色を帯びている筈の安田の口から、雨のような冷たい言葉が吐き出される。卒業、進路、将来。いくら前を見たって何も分からずいつまでも進めないあたしは、とうとう安田に突き放されたのだと思った。
目の前が暗くなる。足下が崩れ落ちる。外は雨。太陽は笑わない。助けを求めても、アケミという存在は側に居なくて。
気付けばあたしは、職員室を飛び出し、昇降口へと向かっていた。