インテリと春
「ほら、話してみ」
「…面倒だって、突き放されると思ったから、」
「聞くよ、ちゃんと」
雨の音を掻き消す安田の声。餓鬼のように無邪気なその笑顔が、好きだと思った。
「…あんね、」
「うん」
「あたし、中学ん時、こんな雨ん中で、同級生の馬鹿な男子に、襲われ掛けたことがあって…」
言葉にならないくらい怖かった。でも側には誰も居なくて。泣いても、叫んでも、助けは来ない。ただただ雨が降り続けるだけで、どうにもならなかった。当然あたしは全身泥だらけの姿になってしまい、寒さと恐怖で震える身体のまま、仕方なく家へ帰ったけれど。その日も仕事仕事と忙しそうな父にはどうしても言い出せなくて。そんな父が恨めしくて。
「今でも恨んでる」
過去をえぐり出そうと自らの手で頭の中を掻き回しているあたしは、やはり安田に言うべき事ではなかったと少しだけ後悔をする。けれど一方で、だんだんと抑揚を失っていく口調が話すことをやめない。全てを吐き出すまで、憎らしい連中の卑劣さと残酷さを暴露し続けてやる。自分の中に潜む臆病な生き物が、そう小さく吠えている気がした。
「それからずっと、あたしは、馬鹿な男と雨を嫌って、避け続けて…少しでも、あの場所から離れられるならと思って、ここの高校を選んだ」
「…そっか」