インテリと春
この高校は地方でも有数の名門私立高校で、世に言うお嬢様やお坊ちゃま、または教師も腰を抜かす程の成績優秀な餓鬼共だけが入学出来るという場所。そんな馬鹿げた高校に、あたしやアケミのような生徒が堂々と居座れる理由は意外にも後者の例に当たる。
自分達の親は、どこぞの大企業を立ち上げた訳でも不正な利益を得ている訳でもない。とは言え、茶碗1杯分のご飯に漬け物だけという貧しい食生活を送っている訳でもなく、言わば親の社会的地位というものは中の上。そんなところだ。
加えて、あたしとアケミの頭は馬鹿みたいに切れるもんだからここにも居座れる。たとえ授業に出席しなくとも、遅刻をしようとも。成績が良ければそれだけで教師は目を瞑るのだ。全くもってくだらない。その腐り切った対応が、余計にこちらの苛立ちを煽っているともつゆ知らず。
「購買で何買うっての」
「んーヨーグルトか栄養補助食品」
「シビアだね~」
食欲が無い時にはそういう物に限るのだとアケミを諭しながら廊下を歩いていく。その間に、四方八方から向けられる異様な視線にはとうの昔に慣れてしまった。
周囲の誰もが、まるで新入社員のようにきっちりと着こなしている制服。それもあたし等にとってはただ息苦しいだけで。定められた紺色の無地のネクタイも緩みっ放し。何とも言い難い地味な色のスカート丈も限界を行き来している。
別段目立ちたいという考えは微塵もない。ただ束縛されることに嫌気が差して、自由に振舞っているだけだ。
「そう思うなら奢ってよアケミさーん」
「冗談じゃねー」
「ケチ」
「バカ」
「バカはねえだろ」
「あ、そっか。あはは」