インテリと春
三年間一度もクラス替えをすることなくそのまま進級するという仕組み。それがこの高校だ。
ゆえに、およそ一ヶ月前のその日も、いつもと変わらずアケミと共に居た自分。校門側の桜の木の下にて、花見という名の暇潰しをしていた。丁度体育館では全校生徒が集まり始業式を行っている頃だったと思う。
「やっぱり花見と言えば酒盛りでしょ」
「まだ言ってんの?」
飲酒の件でアケミは相当粘っていたけれど、学校の敷地内でそんなことを堂々と仕出かせば灸を据えられるどころの騒ぎじゃ済まない。お互いに「補導は勘弁」ということで、結局しがない花見に用意されたのは、コンビニの菓子パンと炭酸飲料。言ってしまえば、ただの朝食になってしまったという虚しい話である。
そして、まさにその花見の真っ最中。例の講師が現れたのだ。
「すいませーん、君等ここの生徒さん?」
暗めではあるけれど、紛れもなく茶に染めた頭髪。ネクタイも締めずに、着の身着のままで来ましたと言わんばかりの私服のような格好。誰が見ても“そこいらをうろついている今時の若い兄さん”としか言い様がない。
「え。お兄さん誰?フツーに格好良いんだけど」
「あー俺ね、安田っていうんだけどさ。今年からここに新任で来た講師」
「やったー!高校生活最後にこんな御褒美貰えるなんて、やっぱ神さまは居るもんだなー」
ねーマユコ!そう言って初っ端からはしゃぎ続けているアケミを余所に、あたしは一言も口を開かず黙って安田を睨み付けていた。すると、その視線に気付いたのか、野郎はこちらを向いて、爽やかな笑顔を咲かせたままおもむろに言い放つ。
「目つき悪いねー君」
「殺すぞクソ野郎」
これが初めての会話。アケミとの初対面と同様に、とても間抜けな出会いだったと今でも思う。