インテリと春
しかしながら自分は、あまりに乙女過ぎる例の友人程、短絡的で前向きな考え方を持ち合わせていない。つまるところ、その場でたちまち一目惚れなどという漫画のような展開にはならず。事実的に惚れたと言えるのは、これよりもう少々後のことだった。
「あれ?今日はあの友達居ねえの?」
花見の一件からおよそ一週間。この日は運悪く朝から雨降り。おかげで何もかもが上手く運ばない気がして、アケミは学校を欠席したのだということも素直に言いたくなかった。
ふと耳を澄ませた時に聞こえてくる小さな小さな何かの音。それと酷く似た春雨の静かな音は、梅雨の土砂降り程ではないけれど、それなりに不快で。どこか不安で。
「マユコちゃんだっけ?俺のこと忘れた?一週間くらい前に校門で声掛けたんだけど、」
「話し掛けんなバーカ」
「…手厳しいねえ」
「どうせあんたもくだらない教師共と同類だろ?だったら無理に生徒と仲良くしなくたっていいんですよ“先生”。お互い疲れるだけですし」
まだ午後の授業が残っているにもかかわらず、昇降口で下校しようとしているあたしを不思議に思ったんだろう。そうでなければ声など掛けてきやしない。それが教師だ。
でもこの時のあたしは、一人で下校することに僅かな躊躇いを感じ、迷っていたのだと思う。
怖い。雨が、怖い。しとしとと降り止まない頭上からのトラウマ。傘を差して済む話なら、こんなにも竦む足に戸惑うことなどないだろうに。
「奇遇だなあ。君も人間関係云々に疲れてるタチ?実は俺もなんだよね。人付き合いなんざつくづく面倒なだけでよ」
「は…?」